天地無用

なんでもアリ・様々なテーマで綴るコラム亜空間。

デビッドカッパーフィールドのウラ

 このページをご覧くださり誠にありがとうございます。Jackknifeページのこけら落としとなるこのコラムは、タイトル通り、先日行われたデビッドカッパーフィールド東京公演について、私の評価を書くことが目的であります。初回ということで気合いも入り、やや長文で拙い内容ではありますが、多くの人に理解してもらえるように書いたつもりですので、暖かいご理解を宜しくお願いいたします。今後も評価やトクする情報を中心に、客観的な考察も交えて記載していきますのでご期待下さい。


 彼を最初に見たのは子供の頃のテレビ番組である。当時ゴールデンタイムにはいずれの民放局でも「×曜スペシャル」という番組を放送しており、朧気な記憶をたどれば確かNTVの木曜スペシャルでは無かったかと思う。「自由の女神を消す男とはどんな奴だ!」小学生には過大すぎる好奇心を胸に見たものは、四方八方からサーチライトで照らされる自由の女神と、飛び交うヘリコプター、そして見事消された一瞬であった。これまで見たデパートのおもちゃ売場でのテーブルマジックや笑点前座の余興マジックはもちろん、引田天功の油壺大脱出さえもかすんでしまう、あまりにも強烈なアッパーが見事に決まった一瞬だ。「どんなマジックにもタネはあるさ…」と可愛げの無い小生意気な思考の小学生でも、思わず黙り込んでしまう。タネを考えるのもばからしいほど大胆な芸だ。アメリカ人総出で仕組んだヤラセだとしても、相当スケールがでかい。僕のアメリカに対するイメージは、彼の登場で格段に向上したといってもいい。

 その男が日本にいながら12000円(S席)で見られるのなら安いものである。日頃のチェックが甘く去年の公演はチャンスを逃した。今年もあやうくであったが、8月21日最終日の昼間、追加公演のS席という形でなんとか予約できた。自由の女神を消す男だ、都庁の一つも消してくれるかもしれない。後日チケットと一緒に送られてきたリーフレットによると、観客の中から選ばれた2人を宙に浮かし、13人を消し、全員を驚きのルツボにたたき落とすようなことが書いてあった。自由の女神を消せる男なら、13人消すのなど容易いことに違いない。少々残念ではあるが、「観客の中から」という説明からすれば、可能性は低くとも自分も消してもらえるかもしれない。映画6本分以上の投資をしたのであるから、相応の期待をして当日を待つことにした。

 8月21日は残暑も厳しい青空であった。晴天は外出には好都合でも、健康的な青空のもとで屋内マジックという組み合わせはちょっとそぐわない。しかしながら小学生当時の好奇心はそのままに会場の東京国際フォーラムに向かった。東京都民ではありながら、恥ずかしくも初めて入場することになったわけでが、外から見るよりもはるかに大規模な施設に感じた。会場のホールAは1階と2階で約5000人を呑み込む。自分のチケットは2階席の前から2番目であった。2階席はホールの中央から延びているため、S席ということで期待していたほど舞台は大きく見えない。この時点で若干テンションが下がる。しかも指定されている席に誰かいるようだ。早速確認し自分たちが間違っていないことを確認し、靴まで脱いでくつろいでいた学生2名に伝えると、あたふたとどこかに消えてしまった。ん、2名が消えるというのは早速マジックの一興か?下手なジョークの裏には、下がり始めたテンションを隠そうとする本能があったのか。

 2階の前から2番目からの眺めといっても、車の助手席で5インチテレビを見ているくらい小さい。プロジェクターが2機あるが、照明は常に消えているわけではないので見にくい。しかしそれでも後方を見ると延々と座席は続いている。後方の席でも皆さん最低8000円は出費しているはずだが、プロジェクターがようやく見えるくらいではないだろうか。なかなかもうかりそうな商売のようだ。

 そうこうしているうちにショーが始まった。通訳の説明から始まり、舞台にスタッフがちらほら。照明が暗くなり、いよいよショーの始まりだ。舞台に立ったスタッフが大きなボードを持っている。煙幕があがり、いよいよ待ちこがれていた男が現れる。煙幕の向こうに人影が。やつがデビッドか!いや違うおっさんだ。記憶やパンフレットの写真ではかなり濃い優男だぞ。えっ、やっぱりそうなの…時間というものは残酷である。せめて技は衰えてないことを祈るのみだ。

 前置きが長くなってしまったが、2時間近くにわたってデビッドは10以上のマジックを見せてくれた。ここで記憶に従って内容を列挙して書いていく手もあるが、やはり見るも不思議なマジックを文章だけで綴ることにより、是非見てみたいという方の興味を半減させてしまっても申し訳ない。このページはあくまで私のショーに対する評価を書くことが目的なので、必要な最低限のポイントだけ書くことでご了解いただきたい。これから見るチャンスのある方は、見ないほうが良い場合もあるだろうから、ご自身の責任で。といってもタネはばらしていないし、わかるはずもない。また全てマジックの内容を知りたいという方は、各種検索エンジンで探してみるとたどり着けるかもしれない。


 まず全体の評価として、損をしたとは思わないが12000円は高いと感じる内容である。微妙な判断となってしまっているが、評価ポイントを示すなら、

・全体の約1/3のマジックが驚愕に値する素晴らしい内容であった。
・アメリカを代表するマジシャンらしく、演出に工夫がある。
・S席のわりに舞台が見づらかった。プロジェクターも同様。
・明らかにヤラセと思われるマジックがあった。
・昼間のショーなのにシモネタが多く、ワンパターンさを感じる。
・僕のデビッドのイメージはちょっと崩れた。
という感じだ。不満な部分も多いが、基本のマジックが優れていたため、ようやく均衡を保っているといった感じ。

 まず基本のマジックの内容は、空中浮遊や13人を消すマジックなどは、一見の価値がある。彼は基本トリックを独自のアレンジで行っているらしいが、演出とあわせてさすがはプロといった演技が、全体の約1/3である。一方でその他2/3は明らかにヤラセと思われるマジックであったり、舞台がよく見えないためマジックを正当に評価できなかったのである。ヤラセと疑われる例は、パンティーを入れ替えるマジックである。以下内容について書くので、見たくない人は飛ばして欲しい。

@最初に軽いトークで、観客に今日の下着は何か質問。
A観客席から女性を2人選ぶ
B二人を舞台にあげ下着の色を聞く。自分が見たマジックも、インターネットで紹介されている例も何故か一人は白で、もう一人は赤であった。
Cそれぞれに自分のサインをシールに書かせる。後ろを向かせ、パンツの端をつまみ出して、証明のためそれらのシールを貼る。
D両人のパンツが交換されると宣言。いつのまにか赤のパンツが空を飛び、踊る。
E女性を再び後ろ向きにすると、それぞれ相手の色のパンツの端が現れ、シールも貼ってある。

 こんな感じなのだが、まず人のパンツをはくことは誰だって抵抗がある。マニアを除けば同姓同士でもいやなものだろうし、まして相手がヤバい病気を持っていたら悲惨である。また舞台の上で多数の人に端といえどもパンツを見せる行為。下手するとセクハラ訴訟ものである。これだけでも、問題回避のため主催者側の用意したヤラセではと疑われる。またパンツの空中浮遊を全ての観客に示すためには、黒などのパンツをはかれていても困る。パンツは外から見られないから、絶対目立つ色のパンツが必要だ。赤のパンツをはいた女性を必ず確保したいとなると、ますますヤラセが必要となってくる。(実は別のマジックでも任意に指名した観客のネクタイが宙を舞うマジックがあったが、これも赤のネクタイ。ネクタイの裏のタグを見て「イトーヨーカドー」と一言いい笑いをとるのも固定パターンらしい。)マジックはタネがあるものなので、ヤラセ自体は存在も使用することも否定はしない。ヤラセとばれなければいいのだ。ヤラセと簡単に疑ってしまう視聴者参加型マジックであれば、しないでもらった方が彼のイメージが良かった気がする。

 演出の工夫などは、さすがショービズ大国アメリカと思わせるものである。一番良かったと思う彼自身の空中浮遊のマジックでは、冒頭で作り物の羽をつけて鳥人間に挑戦する人の昔のフィルムを流し、「飛びたいという夢をいつか実現したかった」云々のデビッドの台詞で始まる。いかにも怪しげな機械からはレーザーが飛び出して、デビッドの体を焼き切ったり、風がコンセプトのマジックではいかにも機械といった感じの巨大扇風機が中央にそびえ、ショーをもり立てる。

 しかし舞台は見づらい。後方の方などはオペラグラスなどを使っても、テレビで見ているほうがましという状況であったと思われる。例えば空中浮遊のマジックなら明らかに糸が見えないのに飛んでいる状況があって初めて不思議なのであり、良く見えないことはマジックが死んだにも等しい。たとえ2万円でも、しっかりわかる小ホールで開催するか、後方の席は格安にするなどの措置があっても良い気がする。またプロジェクターを見なければわからないのであれば、生でマジックを見る意味は無くなってしまう。今回は舞台が良く見えないため評価できないマジックも多いが、ちゃんとステージ近くで見られたなら、当然評価が良くなる可能性があることを付け加えておく。

 シモネタは嫌いではないのであるが、当初のデビッドのイメージからは、必要無い要素であるように思う。日本公演で見た彼は、シモネタ&ジョーク好きなおしゃべりオヤジといった感じである。自由の女神を消した男として、どんと構え、すごい技だけを絞ってみせてほしかった。ネタが足りないなら派手でなくてもかまわない。クールなテーブルマジックを交えてくれれば十分であったと思う。

 また観客参加型と謳っているが、上記の例のように明らかにヤラセを選んでいると疑われる例もあるくらい抽出方法がいいかげんだ。特に一部の人間を除外するような方法は問題がある。デビッドが指示する場合が多いが、無作為抽出だと強調しながら、フリスビーを数回投げさせたり、巨大ボールをバレーボールの要領でトスさせたりする場合もある。しかしフリスビーは2階席まで飛んでくる可能性がなく、ヤラセ同士でコントロールできる可能性もある。また最後の大ダネである13人が消えるマジックは、巨大ボール13個が座席上でトスされ、ある時点で持っている人が舞台に上がってきて消されるチャンスを得られるのだが、2階席最前列は危険だからボールのトスができないと説明され、そのチャンスはいきなり奪われる。座席位置を除けば料金は同一の扱いになっているはずだから、差別があるのだから非常に不愉快である。席からの見え方で既に多くの犠牲を払っているのだから、サクラのいらないマジックであれば全ての中から正当に無作為抽出できるシステムを用意すべきであろう。例えば長年繁盛を続ける東京ディズニーランドでは、大人でも子供でも全ての客はゲストとして公平に扱うポリシーが徹底していると聞く。主催者には是非見習ってほしいものである。

 というわけで素晴らしいマジックもいくつかあるが、数々の不満も持つことになってしまった公演であった。インターネットで得た情報では、日本公演はこれで終わりという説もあるようであるが、もし次回公演のチャンスがあり、見てみたいという方は、絶対に舞台前の良い席の確保に努力されること、また席が良くなければ無理をしないことをお勧めする。アリーナなどは関係者にコネが無いと無理かもしれないが、万一主催者が公演時期近くにアルバイトを募集することがあれば、サクラになれるチャンスが残されているかもしれない。サクラならアリーナでじっくりと舞台が拝めるはずである。断っておくがあくまでも想像及び仮説の世界の話であるので誤解のないように。

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